ブリュッセルレクイエムの次はあるのか?

吹奏楽業界、今年はとにかくブリュッセルレクイエム(通称:ブリュッセル、ブリュレ、ブリレク)が圧倒的な数演奏された。
なんとなくの数字だと、県大会レベルで66団体、支部大会では40団体が演奏。
恐ろしい数のブリュッセルが、全国大会で演奏される見込み。

<曲が持つ「魔力」>
テクニカルなことを言えば、
・TPのトリプルタンギング必要箇所が複数。
・技巧的なソロが、クラリネットから始まり、ソプラノサックス、イングリッシュ・ホルン、超高音のトロンボーン、高速のシロフォンクラリネットの低音ユニゾン、トランペットの歌ソロ、ホルン高音、ユーフォ+テナーサックスの超長い連符…。
・超ヤバい、半音階の全パート受け渡し
変拍子の嵐
・これでもかとくる金管の高音。
・声部がびっくりするくらい多い…。
と、全パートが難しい。

しかし、これだけたくさんの「具」がある曲も少ない。
ソロがあり、金管の見せ場があり、難しいパッセージをTUTTIで吹き
「歌える」場面もあり、最後は、テクニカルにまとめる。
これほど、コンテスト向けの曲があるだろうか?

もう一つ、学校現場として音楽をコンテストで演奏する際に、
特に、標題音楽の場合、音楽が持つ時代背景や、音楽がもつ意味を生徒たちと考える良い材料になった、というのもこの曲が流行った理由であるように感じる。
テロとはなにか?平和とはなにか?そういった、
これからの未来を生きる子どもたちが考えておいたほうがよい、現在的な社会課題も含まれている。(そこまで考えてやっている学校があるかどうかは、ここまで来ると謎)


<レクイエム?>
例えば、鎮魂とはなにか?と考える。

レクイエムは、日本語では、「鎮魂歌」とか「鎮魂曲」のように訳されているが、この訳語では、すでに述べたことからわかるように、実はまちがった意味になってしまう。
本来のレクイエムには、死せる人々が生きている人に危害を加えるから、それをなだめるとかいう考えはまったくない。この言葉にあるのは、生きている人々と同様に、死者にも、最も大切なものである「主の平和(平安)」を与えて下さいという願いなのである。
主の平安は、主イエスがこの世を去るときに、信じる人に与えると約束されたものであり、神の持っている平安であり、最もよきものであるゆえに、生者、死者にたいしてもそのことを願うという気持ちから、カトリックではレクイエムという歌がある。
以上のように、キリスト教では鎮魂ということはあり得ないゆえに、レクイエムを鎮魂曲などと訳すのは本来は間違ったことなのである。
鎮魂とは、言い換えると、怨霊(おんりょう)を鎮めることにほかならない。
「鎮魂」ということ

*1


レクイエムじゃないじゃないか!とおっしゃる方も多いようだが。
大きく4つのパートでできているこの曲の4楽章が、非常に華やかに聴こえるカットが多いからだと思われるが…。
 死者の平和を祈るとき作曲家の持っているの仕方で(ブリュッセルには、ジャズフェスティバルがあるそうだ)怨霊を鎮め、テロのない新しい未来を夢想するような楽章として4楽章が描かれたものとすれば、ブリュッセルレクイエムは1つの物語として立ち上がってくるのではないだろうか?「レクイエム」として意味を持つのは3楽章であるように感じる。「ブリュッセルレクイエム~そして未来への咆哮~」くらいのクサい邦題をつけたら、もう少し理解してもらえたのだろうか、この曲。
スコアの序文を翻訳して、よく理解された指導者がいれば、この点はわかるはず。


ブリュッセルレクイエム、その後>
コンクール支部大会レベルでとりあげた39団体が、前年どんな系統の曲を演奏してきたかをおおまかに調べた。
■2019ブリュッセルを演奏した団体が、2018年に演奏した曲
オリジナル:14、編曲:10、邦人:15(団体。中高大一般すべて)
・オリジナルは、意外と、アウディヴィ・メディア・ノクテから流れてくるところが少なく、ワインダークシーを演奏していた団体が多かった。残りは、フェスバリ、宇宙、バーンズ、アークエンジェルズと、オリジナル曲の中でも技巧的で定番化した曲が多い(しかし、アークエンジェルズが意外と流行らないのは、楽譜が高いせいだろうか?)
・編曲は、ラヴェルを中心に、定番歌劇ものがメイン。
・邦人は、高昌帥か、天野らへんのこちらも定番曲から流れてきたパターン。

→基本的に共通性はないが、強いて言うなら「流行り物」か「定番曲」の流れである程度、バンドの実力のある団体が、こぞってブリュッセルを選んだということになる(見ればわかる)

問題はここからである。
ブリュッセルという劇薬のあと、何を選ぶのが正しいのか?である。
2018年にブリュッセルレクイエムを選んだ団体は
フェスバリ、役人、タイムフォーアウトレイジ!(ピュッツ)と3様に分かれ、
来年の元ネタとして機能するかもしれないのはタイムフォーアウトレイジ!だけとなってしまった。これは、元ネタになった団体の華麗なる転身が、フォロワーを路頭に迷わすという、謎の生き地獄化である。
そもそもね、真似する前に、自分たちで新しい曲探しとけって話なのではあるのだけど。なかなかないのよねーってところに、ブリュッセル3連発金賞、しかもいい曲!

ってだけなんですよ。きっとこの流行り。ま、流行りとは得てしてこういうものなのでしょう。じゃあ、来年役人やります?やらないですよ。

では、もう少し視野を広げて、今年度支部大会までで新しく演奏された曲でいい曲は?というと、高昌帥委嘱か、天野正道委嘱か、バッハザイツ、アラルコン、松下倫士…?阿部勇一…。いやー、おそらくないです。ブリュッセル級の曲は…。
そして、高昌帥、天野正道、福島弘和の曲があらかたやり尽くされてしまっている点がとても問題。GRやります?キリストの受難やるか、アークエンジェルズやるか…。
新しい苦悩の始まりでもありますね。

ま、いつも新曲をやることが「いいこと」ではないし。こうやってブログにしている時点でミーハーでしかないことは事実。ゆりかえしなのか、ブリュッセルブームの裏で、過去の名曲を発掘する大きな流れも、感じます。時代がどうジャッジするか?
ローマの祭りや、ダフニスとクロエのような曲に吹奏楽オリジナルがなるのか?
これも、ブリュッセルその後の楽しみではあります。

バンドにあった曲との出会いもまた、これ愉快ではありますね。(ノーテンキな終わり)

<また書きます>

 

 

*1: 徳島聖書キリスト集会の方がまとめておられる文章の中の一部から抜粋