SM

カシャン、カチカチっ。カシャンカシャン。
チキチキチキと几帳面そうに肩をすぼめて、彼は小さいキーボードをある一定のスピードで、打っている。
チキチキチキチキとなって、その音だけに耳を傾けながら、私は、小さいキーボードと、実際のキーとボードの間の音を聞いていたのだけれど、つまりどういうことかというと、私は一度、パソコンのキーをはずしたことがある。
むしろ、懸命に引きちぎった、に近いのだけれども、中にはプラスチックの部品が二つ、入れ子になって、小さなはしごみたいな構造になっていて、はしごの真ん中にはぷるぷるしたゴムに守られたボタンが入っている。
その中身部分が、ボード部分で、キーっていうのはプラッチックの板で、それだけ見ると、プラモデルの部品、ガンダムを作るときの肩アーマー部みたいな感じでしかない。プルプルの周りに、いつも知らないでいるような細かな毛や、ホコリが、ごしょっと入っている。だから、チキチキの音の中にもいろんな原因があって、小さい毛やホコリがクッションみたいに、あなたのチキチキ音を作っていることは間違いないのだけど、叩き方によっても響きはだいぶ変わってきますね。

肩をすぼめた男の人は、すごく神経質に軽いタッチで、キーをたたきます。そうね、ぴっと小さい虫を優しくつぶすようにしてそっとタッチする。多分、手練になればなるほど、このタッチは軽く、素早く、おもさ無くなっていくのであろうけれども、
もうギッコンバッタンやる人、
いるでしょ?もう、何の恨みがそこにあるのか、わかないんだけど、
チキチキと言っていると思ったら、
急にエンターボタンをバン!バン!ってする人。
もう、中のぷるぷるが、やめて、やめてって言っているのが聞こえるくらいに、
バン!バン!って何をそんなに「決定」したいのかと、何をそんなに「決定」をダイナミックな、ドラマチックなものにしたいのかと聞いてみたくなるくらいに
チキチキバンバン、
チキチキバンバン、
しかめっ面でする、おっさん、たいていおっさん、がいます。
んでね、でっかい音でマナーモードにしてないで、
プルプルプルルって、
携帯をボリューム5中5くらいで、鳴らして、しかも電車とか図書館とかでね。鳴らして、それを大いにとっちゃうおっさんも、おります。はいもしもし、今ね、電車だから、とか言ってるんだけど、それが大声で、でかい声で。
あほう、あほうなおっさんがおる。
と私は小さい蚊の飛ぶ音のような、小さい声で、脳の声で言うのだ。