コンテスト、とは何か?

最近は、吹奏楽という1つの音楽ジャンルに関わっている。もう4年目になる。
教育機関以外での吹奏楽団は「一般」と呼ばれ、
老若男女、プロ演奏家をのぞいた音楽愛好家たちがそれぞれ団体の伝統や、勝ち方で、
夏のコンクールに臨む。

各地区大会−県(都)大会−支部大会とおおよそ3回※で勝ち抜けば、全国大会が待っている。
全国の一般吹奏楽団体は、連盟発表によると2015年時点で1,649団体。
その中で全国大会で演奏できるのは、26団体。1.57%。

全国大会に出場する26団体に、あまり変動はない。年に1-3団体程度新しい団体が
厳しい戦いをくぐり抜けて命からがら(笑)、全国へやってくる。

会場には、全国各地から、レアチケットを手に入れた吹奏楽ファンたちが、
ここぞとばかりそれぞれに鍛えた耳を試しにやってくる。
曲が終われば、それぞれの評価を口々にコソコソ話し出す。
ある者はメモをとり掲示板投稿のネタ作りに勤しみ、
ある者は「ここはあのパートがいいよね。」「ってか課題曲のあの解釈ww」
サウンドはいいけど、全体的に推進力がないよわよね」等の会話。
ガサガサと、おもむろにカバンの中から飴を取出し、糖分を摂取し、次に備える者。
プログラムを自作し、点数欄を作って審査員ごっこに興ずる者。
聞く様子もさまざまだ。
そして、聴衆はブラボーと叫びたがる。ホール中が得も言われぬ祝祭感に包まれる。
よいものは、よいと聴衆側も発信することで、この音楽を「私たちが」作り上げたのだ、
とでも言わんばかりの熱狂が包む。
全国大会の醍醐味って、そういうことなのだと個人的には思っている。
全国になれば、コンクールはお祭りになる。

【審査】
評価は基本的には「技術点」と「表現点」に分かれており、各地区によって細かい表現方法は違うが、基本的には点数の総和の高い順に順位がつき、賞が決まる。
合奏にとって、基本的な要件。
「各楽器の基本的な奏法」「バランス」「ハーモニー」「音色」「音程」
「楽譜を昇華できているか」「音の処理」などについて評価されているものと思っている。
※実際は、具体的に何が「技術」で何が「表現」かを明示的にされた規約等を見たことがないのでどういう基準で、「技術」と「表現」が分かれているのかは分からない。
これはかなり大きな問題のように感じるが…。
フィギュアスケートのようにテクニカルエレメンツが決まっているわけでもない。
ここは、審査をしてみたことのある人に聞いてみたい。

【審査】
審査員は、日本の著名オーケストラ、吹奏楽団の管楽器・打楽器奏者、
吹奏楽に多くのレパートリーを持つ作曲家、音楽大学の講師以上の専門家が担う。
癒着が完全にない状態、というのは作り出しにくい狭い世界であるなあとも思う。

【選曲】
曲は課題曲と、自由曲に分かれて、全体を12分でまとめる。

■課題曲
課題曲は、現在はマーチ(と言われている3分程度のマーチ的な楽曲)が2曲
その他、吹奏楽の現代的なレパートリーになり得そうな曲が3-5分程度で2曲。
1曲は、中学校以外の集団で演奏できる「課題曲5」がある。
おおむね、現代音楽的な要素が含まれているが、現代音楽的なクリシェでコーディングされた「それっぽい」ものが多い。
合奏コンテストという中で評価対象となる課題曲である以上、現代音楽の新しい表現の拡大というよりも、個々人の技術力を他の課題曲より誇示しやすく、楽曲の難易度が高いため評価されやすい楽曲に仕上がる場合が多い。よって上位を狙う場合、選ばれる可能性が高い。
全国大会での金賞団体が5を選んでいる場合も多いが、
残念ながら、全国大会の評価と課題曲の選択に極端な比例関係はないように感じる。

近年は、テクニカルエレメンツ的に、完成度をあげやすく、自由曲に時間をとりやすい
マーチを選び、自由曲に時間を残す作戦をとるところが増えている。

■自由曲
自由曲は、吹奏楽のためにかかれた作品(=オリジナルと呼ばれる)ものと、オーケストラ編成のための曲を吹奏楽向けに編曲した作品(=編曲作品)のうちから選ばれる。

自由曲選曲にに各バンドの個性が発揮されることが多いが、勝ちやすいのかな?と個人的に思うのは
・oboeなどの木管楽器による、20秒程度のソロが入る。
・フォルテのサウンドと、ピアノのサウンドが、1つの曲の中で表現しやすい
・テクニカルな要素(たくさんの音を速く吹く連符、金管楽器が高い音をたくさん出す、全員で細かい音をぴったり揃えるなど)で、各団のよさを表現できる。
・アンサンブルの妙技を見せられる部分がある→楽器感でフレーズを受け渡し合うなど、
個人だけでなくパート間のコミュニケーションが演奏上難しい。
ような曲。
そして、実はちょっと安易だが一瞬「歌のような」場面がある曲はどうやっても
感銘度が高いように感じている(表現点になりやすい?)

近年の傾向は、
①王道曲(クラシック編曲、20年前からずっと演奏されている名曲)
②ここ数年で全国大会で演奏された曲(新規オリジナル、邦人作曲家新作等)
③委嘱作曲、委嘱編曲作品。(レアな60−70年代の邦人現代音楽のリバイバル、著名作曲家への委嘱作品等)

①で有名な曲はラヴェル
「ダフニスとクロエ第二組曲より」、「ローマの祭」「シバの女王ベルキス」
歌劇「トゥーランドット」などなど。
最近では、「三角帽子」「スペイン奇想曲」バーンズ「交響曲3番」
など過去の人気作品のリバイバルが多くなってきた。
異彩を放つのはバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調」。
磐城高校がとりあげて以降、確実に演奏団体が増えている。

②は、大きなジャンルだが、この中でも2000年代で、人気が不動のものがある。
CTスミス「華麗なる舞曲」
P.スパーク「宇宙の音楽」
島弘和「ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶
高昌帥「ウィンドオーケストラのためのマインドスケープ」「吹奏楽のための風景詩《陽が昇るとき》」
保科洋「復興」
酒井格「森の贈り物」

②の割合が近年増し天野正道、高昌帥らの曲が積極的に取り上げられている。しかも
一度ブームが去った後も、繰り返し演奏されるようになってきた。
今年は昨年強豪団体が演奏した、天野正道新作二作品「シネマシメリック」「天雷无妄」
の二曲が盛んに取り上げられている。

③は黛敏郎三善晃らのレパートリーの編曲、長生淳、鈴木英史ら、邦人作曲家に依頼して
独自に作曲してもらった曲などが並ぶ。


一般の吹奏楽団の選曲理由には、
「かっこいい」「わかりやすい」という理由で選ばれるものもたくさんある。

一般団体って、
・高校で目標としていた「地区大会金賞」や「支部大会出場」という目標を達成できず、
青春をやり残して、もう一度その感動を味わいたい人。
・音楽が好きで、ボーナス出た勢いで楽器を買ってしまい、とにかく楽器が吹きたい人
・もはや、楽器を吹くことで、あるいは賞をとることでしか社会的にチヤホヤしてもらえないため頑張って自己顕示欲を満たす人
・全国出場するために、わりと私生活を投げ打って、ひたすら練習する人
と、いろんな類型の人が、一つの団に集まり、あーでもないこーでもないとやっているので、
結局「かっこいい」からいいか!となることだってあるし、
コンサートで、自分の周りのお客さんにわかってもらいたいから「わかりやすい」曲がよい
という場合もあれば、日頃、難解な音楽にあまりふれることがなく、シンプルなメロディラインの吹奏楽的な曲のほうが取り組みやすい場合もあるだろう。

そういうさまざまな要因を考慮して、12分間でどのように自分たちの団体の音楽性みたいなものを表現するかを決めていくのだ。

そうこうして、なんとかかんとか大会に出ていく。
(続く)